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最高裁判所大法廷 昭和25年(れ)841号 判決 1952年3月19日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人大山三郎こと呉道淳弁護人神田静雄、同三宅清の上告趣意は、後に添えた書面記載のとおりである。

同第一点について。

記録を調べて見ると、広島地方裁判所裁判官戸田弘が、昭和二三年一二月一一日発した本件捜索押収状の記載には、上段冒頭の被疑者に関する欄に「安芸郡海田市町薬師町四七、醸造業宗像英雄、年齢不詳」とあり、これに続いて「右の者に対する酒税法違反被告事件につき別記場所を捜索し別記物件を押収することを認める」とあって、下段の押収すべき物又は捜索し若しくは検証すべき場所等の表示の欄の後段に「押収すべき場所」(これは捜索すべき場所の誤記か又はその意味と認められる)と肩書して、「安芸郡海田市町薬師町宗像英雄方土蔵」とあることが認められる。ところが、薬師町における醤油醸造業者は宗像茂雄であり、同人の証言によれば、宗像英雄なる者は同町にはいないのであるから、令状に「宗像英雄」とあるのは、明らかに「宗像茂雄」の誤記であると認めることができる。それゆえ、令状の捜索すべき場所は、安芸郡海田市町薬師町宗像茂雄方土蔵であり、現実に捜索押収した場所もこれに合致している。従って、本件令状による捜索押収は適法であって、原判決はなんら憲法の解釈を誤った違法はなく、論旨は理由がない。

同第二点について。

本件の令状が、捜索押収状という名義をもって、捜索と押収とを一通に記載してあることは所論のとおりである。しかし、憲法三五条二項の趣旨は、捜索と押収とについて、各別の許可が記載されていれば足り、これを一通の令状に記載することを妨げないものと解するを相当とする。従って本件令状による押収は適法であり論旨は理由がない。

同第三点について。

本件令状に基く押収が適法であることは、前二点で説明したとおりであって、その適法であることの理由は、罪となるべき事実ではないから、これを判決理由に示さなかったからといって、原判決の理由に不備又は齟齬があるとはいえない。それゆえ論旨は理由がない。

よって、刑訴施行法二条旧刑訴四四六条により、全裁判官一致の意見をもって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三)

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